遠州のたくさんの宝物
遠州地域の北には天竜の人工林が広がっています。スギ、ヒノキが豊富にあります。ただ、間伐が進まず、荒れた森も増えてきました。荒れているのは、人工林だけでなく自然林も同様です。土砂崩れやダムを埋める土砂、川の貧栄養化など、川は健康を失い、海も栄養源を失います。スギ、ヒノキの木材だけでなく精油も販売して、山村へ還元でき、間伐が進めることができると考えています。
森はもともとオーガニックです。農薬は使われていません。つまり、森の樹木から作られる精油は農薬の心配がないオーガニックです。精油には、抗菌、防カビ、防ダニ効果があり、リラックス効果も確認されています。樹木系精油の事業は森と川と海、そして人を健康にする取り組みです。
地場産業として、生花や枝ものとしてユーカリやクジャクヒバが栽培されています。また遠州は柑橘の産地で、低農薬、無農薬で栽培している農家もあります。針葉樹系やクスノキ科の園芸品種、栽培が可能なハーブ、和ハッカなどの和ハーブ、しょうがなどの野菜、モクレンなどの香りのある花を含めると精油が抽出できる植物は100種以上になります。
遠州地域の代表的な精油を含む樹木と柑橘
植林されたスギ、ヒノキの他、スギ、ヒノキの林の中にはクロモジ、自然林にはクスノキ、ヤブニッケイ、モミなどがあります。柑橘の果皮には精油が含まれ、温州みかんの他に柚子、夏みかん、甘夏、はっさく、レモンなどが遠州で栽培されています。
スギ
・概要 日本固有種。スギ科はまだ恐竜が生きていた中生代に登場した起源の古い植物群。多くの地域品種がある。分布は本州北部から南は屋久島まで生育。天竜地域での人工林では、約七割がスギとなっており、資源はヒ ノキよりも豊富にある。建築材のほか、家具や杉樽、曲げ物に使われてきた。樹皮は外壁や屋根の杉皮葺に利用し、葉は乾燥して線香に用いられてきた。
・精油 部位は葉、枝葉、木部の三種があり、多くは葉、枝葉から蒸気蒸留法で抽出している。
・主な成分 α-ピネン、16-α-カウレン、リモネン、ミルセン、カンフェン
高いホルムアルデヒド除去能力と大気汚染物質除去能力
ヒノキ
・概要 ヒノキ特有の芳香がある。分布は日本と台湾のみ。天竜地域での人工林では、 約三割がヒノキとなっており、資源は豊富。 建築材のほか、家具やヒノキ風呂、ヒノキ酒器など多くの用途がある。
・精油 国産の代表的精油として、ヒノキの産地である吉野、木曽をはじめすでに多くの組織が精油を製造している。部位は葉、枝葉、木部の三種があり、蒸気蒸留法で抽出している。
・主な成分 α-ピネン、α-カジノール、δ-カジネン、γ-カジネン、α-ムウロロール、T-カジノール
高い除菌率とダニの抑制効果
クロモジ
・概要 本州、四国、九州などの低山や林の斜面に分布。日本固有種。遠州では人工林の林床、林道沿いに見られ、皆伐地に群生することもある。高さ5メートル程度まで成長。雌雄異株。花は春に葉が出るのと同じ頃に咲き、果実は液果 で10月頃に黒熟する。再生力が強く、獣害被害が少ないとされる。高級爪楊枝に使われている。クロモジの精油は、かつてヨーロッパへ輸出もされた。枝 (烏樟)や根(釣樟)を薬用にする。
・精油 伊豆、秩父、熊野、飛騨などで蒸気蒸留により製造されている。ローズウッドとほぼ同じ精油成分を持つ。
・主要成分 リナロール、シネオール、リモネン、α-ピネン、カンフェン
すでに商品化されている国産精油のうち、遠州でも可能なもの
樹木 | ヒノキ、スギ、サワラ、クロベ、ヒバ、モミ、ウラジロモミ、クロモジ、クスノキ、ニッケイ、ヤブニッケイ、ローリエ、ユーカリ、アカシアなど |
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柑橘 | 温州みかん、柚子、ネーブル、はっさく、夏みかん、甘夏、レモン、カボス、ライム、甘夏ベルガモット、山椒など |
ハーブ | オレガノ、ゲットウ、シソ 、スペアミント、ペパーミント、セージ、タイム、ディル、バジル、パセリ、ハッカ、ヒソップ、フェンネル、ローズマリー、マジョラムなど |
テスト蒸留とワークショップ
精油が含まれる樹木と柑橘に加え、含まれると思われる樹木をリストアップしました。計40種のうち、浜松市内で採集・確保できた24種について、テスト蒸留を行いました。リストの中には、貴重種のため採集が禁止されているもの、蒸気蒸留では精油を十分抽出できない花や、実から抽出するものは時期がはずれており、今回は行っていません。
リストアップした40種について、データシートを作成しました。同定が難しい植物もあるため、万が一の事故を防ぐため一般公開はしていません。
ワークショップ
精油が抽出できた24種について、テイスティングと蒸留体験、精油を使ったルームスプレーづくりなどのワークショップを2017年1月から2月にかけて5回ほど開催し、20人の参加がありました。香りのテイスティングでは、多少、男女で傾向があるものの、感じ方が大きく異なりました。好きな香りを数種、選んで調合して、それぞれの香りを楽しみました。
自然から頂いたものは全部使う
蒸気蒸留による精油の製造では、精油とフローラルウォーター以外に、原料残さ、釜の中に煮出し液が残ります。原料残さは畑や森へ返され、煮出し液は捨てられています。精油をすべて抽出できないため、原料残さの中に何割か精油が残っています。足湯として使ったりすることはありますが、有効な利用はなされていません。原料残さや煮出し液も含め、すべて使い切るカスケード利用が森や農家への感謝につながると考えています。
精油とフローラルウォーター、残さの活用
精油
フローラルウォーター
残さ
精油の製造
香料の歴史は古く古代エジプト時代まで、遡ります。ミイラ作りに乳香(フランキンセンス)や没薬(ミルラ)などの精油が使用され、神の香りとされました。17世紀頃にヨーロッパで香料産業が盛んになり、柑橘系の香料が作られるようになりました。世界最古の香水「ケルンの水」が販売されたのもこの頃でした。
日本では香木の文化はありましたが、精油の歴史は新しく、明治時代に伊豆でクロモジの精油が製造され、ヨーロッパに輸出されていました。精油の製造は蒸気蒸留法が最も多く採用されています。1970年頃に揮発性有機溶剤抽出法、1980年頃に超臨界流体抽出法が開発されました。日本では近年、マイクロ波減圧式の抽出装置を数社が開発、稼働しています。減圧式蒸気蒸留装置もあります。
現在、どのような抽出装置を導入、あるいは開発するのかは、まだ決まっていません。
水蒸気蒸留法
最もポピュラーな方法です。原料を釜の中で蒸し、その蒸気を冷却すると、精油とフローラルウォーターが分離します。原料の水分量や蒸気の温度、圧力、時間などで品質と抽出量が変わってきます。本場、フランスでは、高さ数メートルもある大きな釜を使っています。減圧状態で蒸留すると、低い温度で精油成分が揮発するため、効率があがり、品質も良くなります。
圧搾法
主に柑橘類の精油を抽出するために、使わられています。 シリンダーの中に原料を入れてプレスし、原料の水分と精油を抽出します。コールドプレスと呼ばれ、熱を加えないので、変質する恐れがありません。ただし、不純物がまじりやすくなるなどのデメリットがあります。日本では、高知で柚子の精油をこの方法で製造しているところがあります。
揮発性有機溶剤抽出法
温めた揮発性の溶剤の中にを原料を入れると、精油成分が固まり、これをコンクリートと呼び、エタノールでコンクリートから精油成分を分離させる方法です。この方法でバラの花から抽出された精油はローズ・アブソリュートと呼ばれ、高品質な精油の代名詞となっています。一方、蒸気蒸留で得られたものはローズオットーと呼び区別されています。
超臨界流体抽出法
二酸化炭素を溶剤として利用した方法です。高圧にした二酸化炭素が精油成分を強く吸着する性質を利用しています。二酸化炭素が気体と液体の中間の状態にして、低温で二酸化炭素に精油を吸着させた上で、圧力を大気圧に戻すと二酸化炭素が気体になり、精油が残ります。インドではベルガモットなどの精油をこの方法で製造しています。
販売に必要な検査
成分分析
成分分析を行い、成分分析表と物理特性を添付します。
【成分分析表】
A.学名、ロット番号、慣用名、CAS番号、原産地、生育条件、生育段階、抽出部位、抽出方法、生理機能特性成分、残留農薬検査
B.ガスクロマトグラム(GC)
C. GS/MS成分分析の分析条件
D.ガスクロマトグラフとマススペクトルメーター(質量分析器)による成分の特定
E.分析責任者のサイン
【物理特性】
屈折率、屈折率、比重
残留農薬検査
人工林や自然林は元々、無農薬です。柑橘や園芸品種には、たとえ無農薬で栽培していても付近の農園などから飛散している可能性があります。安全を確保するために、残留農薬検査を行います。
放射能検査
福島の原発事故の影響で、天竜のお茶から放射能が検出されたことがあります。安全を確保するために、放射能検査を行います。
SDS(物質安全データシート)の添付
SDSは製造者が化学物質の製品を出荷する際に、その化学物質に関する情報を購入者へ提供するための資料です。安全に使用、取扱いをするために、物質名、供給者名、分類、危険有害性、安全対策および緊急事態での対応など、詳細な内容が記載されています。
日本では製造者へのSDSの義務はありませんが、精油の輸出の際、必要になります。オーストラリアやイギリスではSDSの提出が義務になっています。一般に精油は引火点が低いため危険物扱いになります。
※SDSは、国内では平成23年度までは一般的に「MSDS (Material Safety Data Sheet : 化学物質等安全データシート)」と呼ばれていましたが、国際整合の観点から、GHSで定義されている「SDS」に統一されました。